7つの海

国連海洋科学の10年では、社会的成果として7つの目標、「7つの海」を掲げています

汚染源を特定し、削減、除去した「きれいな海」
A clean ocean

社会は、海ごみ、プラスチック、過剰な栄養塩類、人為的な水中騒音、有害化学物質、有機毒物、重金属等、様々な汚染源、汚染物質を生んでいる。その起源である陸及び海洋の汚染源には、一点からの汚染源と面的な汚染源があり、その結果生じた汚染は、海洋が支えられる範囲を超え、生態系、人の健康、暮らしを脅かしている。汚染源、汚染要因、並びにそれが生態系及び人の健康に及ぼす影響に関する喫緊の知見の不足を埋め、優先度の高い知見を学際的に共同で生成する必要がある。このような知見を基盤として、多くのステークホルダーが、汚染源での汚染除去、有害な活動の削減、海洋からの汚染の除去、循環経済への社会の移行を支援する解決策を協働で立案する。

海洋生態系の理解、保護、復元、管理が進んだ「健全かつ回復力の高い海」
A healthy and resilient ocean

陸及び海洋における持続可能でない活動により、海洋生態系の劣化が進んでいる。海洋及び沿岸生態系の持続可能な管理、保護、復元のため、生態系、並びに多くのストレス因子に対する生態系の反応に関する優先度の高い知見の不足を埋める必要がある。海洋酸性化及び海水温上昇等、人為的ストレス因子が気候変動に関連する場合、特に必要である。このような知見は、回復力を構築し、閾値を認識して生態系の臨界点を回避し、よって、生態系の機能及び生態系サービスの提供を維持し、社会及び地球全体の健康と安寧をもたらすための管理枠組みを実施するツールの開発において重要である。

持続可能な食料供給及び海洋経済を支える「生産的な海」
A productive ocean

海洋は、食料安全保障、数億人にのぼる世界の最貧困層の人々の不安のない暮らし等、世界経済の将来的な発展及び人の健康と幸福を支えている。貴重な生物多様性及び生態系を保護しつつ、天然漁業資源の復元を支援し、持続可能な漁業管理慣行を展開し、養殖業の持続可能な拡張を進めるための知見及びツールが必須である。海洋はまた、必需品、すなわち、天然資源採取産業、エネルギー、観光、運輸、製薬産業等、確立された産業から新興産業に至るまで、商品及びサービスを提供する。知見の向上、イノベーション、技術開発、意思決定支援ツールに対する支援において各産業部門はそれぞれ固有の優先ニーズを有しており、リスクを最小限化し、長期的な損害を回避し、持続可能な海洋経済の発展に対して自らの貢献を最適化しようとしている。政府もまた、国民経済計算に海洋指標を盛り込むことで、持続可能な海洋経済の発展の指針とし、海洋産業部門を促進するための情報及びツールを求めている。

社会が海洋状況の変化を理解し、対応することができる「予測できる海」
A predicted ocean

その広大さにより海洋は、マッピングも観測も十分になされておらず、完全に理解されていない。変化する海洋の主要要素、すなわち、物理的、化学的、生物学的要素、並びに大気や雪氷圏との相互作用を調査し、理解することは、特に昨今の気候変動下において、極めて重要である。 世界の沿岸部から外洋までの陸と海との相互作用、並びに海洋表層から深海底に至るまでの知見が求められており、これには過去、現在、未来の海洋状況も含まれる。海洋生態系及びその反応、相互作用に関して総合的に理解し正確に予測することが、変化する環境及び海洋利用の変化に対応する動的な海洋管理実施の基礎となる。

海洋の危険から生命及び暮らしが守られる「安全な海」
A safe ocean

水文気象学的、地球物理学的、生物学的、人為的な危険により、沿岸コミュニティ、海洋利用者、生態系、海洋経済に、壊滅的、連鎖的、持続不可能な影響がもたらされている。気候、気象に関連する危険の頻度または強度の変化が、これらのリスクをさらに悪化させている。優先度の高いリスクの評価、これらの危険の低減、予報、警告、対策の策定のための仕組み及びプロセスを構築し、陸と海での短期的、長期的リスクを削減することが求められる。海面水位、海洋気候、海洋気象を含み、準リアルタイムから数十年規模の海洋データ量の増加及び予報システムの改善が求められる。このような改善を教育、普及、情報発信と結び付けることで、政策及び意思決定に影響を及ぼし、個人及びコミュニティの強靭性を確立することが可能となる。

全ての人々がデータ、情報、技術、イノベーションに平等にアクセスできる「開かれた海」
An accessible ocean

データ、知見、技術へのアクセス及び品質管理を向上することにより、海洋科学能力の質と量における格差を解消する必要がある。加えて、特に後発開発途上国(LDC)、小島嶼開発途上国(SIDS)、内陸開発途上国(LLDC)における、データ収集、知見生成、技術開発を遂行するスキルと機会の向上も必要である。品質が管理された、関連する海洋知見を、妥当かつアクセス可能な成果物によって、学術界、政府、教育者、企業及び産業界、一般市民に提供することは、管理、革新、意思決定を向上し、社会の目標である持続可能な開発に貢献する。

人の幸福と持続可能な開発に関連して社会が理解し、価値を認める「夢のある魅力的な海」
An inspiring and engaging ocean

「国連海洋科学の10年」の下で行動の変革を促し、編み出された解決策の実効性を確実なものにするためには、社会の海洋との関わり方において大きな変革が求められる。これを達成するためには、海洋リテラシーアプローチ、フォーマル・インフォーマル教育ツール、啓発ツール、さらには海洋への平等な物理的アクセスを確保するための措置が必要である。これらのアプローチを組み合わせることで、海洋の有する経済的、社会的、文化的価値、並びに健康、幸福、持続可能な開発を支えるために海洋が果たしている多くの役割を広く社会が理解することが可能となる。本成果により、海洋とは、感動と夢が溢れる場であるということを強調し、よって、次世代の科学者、政策立案者、政府職員、管理者、新規事業者等に影響を及ぼす。

出典:『実施計画』UNESCO-IOC (2021). The United Nations Decade of Ocean Science for Sustainable Development (2021-2030) Implementation Plan. UNESCO, Paris (IOC Ocean Decade Series, 20.)